第一章
2020年12月15日。運命の日。
太郎くんの病院とカットの日だった。
この日に戻りたい。
残された家族全員が思っていること。
この日に起きたことの一つでも違う選択をしていたのなら……
太郎くんは今もここにいたはず。そう思うから。
この10月に、ずっとお世話になっていたトリマーさんが、遠くに異動になってしまった。これまでも異動はあったけれど、その都度そのトリマーさんを追いかけていた。しかし今回はさらに遠くなった。今思えば、プラス車で30分なんて、大したことなかった。追いかければよかった……
太郎くんは、生まれて初めて知らないサロンで、そしてトリマーさんに、トリミングしてもらうことになった。
しかし、初めてのサロンとはいえ、いつも通っている動物病院の併設サロンだった。だから、恐る恐るというわけでは全くない。むしろ、病院内だし安全だと思った。診察待ちしているときに応対していたトリマーさんも好印象だったから。しかし、それが落とし穴だった。
太郎くんにとっては、大っ嫌いな病院と、初めてのトリマーさんによるトリミングが同じ日に重なった。トリミングだって好きなわけではない。
太郎くんは犬のくせに猫をかぶる。そして、水を飲みたかったりおしっこしたくても我慢した。シーズー特有のDNAがそうさせるのかもしれない。2代目太郎くんもそうだった。プライドが高く、上品に愛想よく振る舞うのだ。その分、トリミングから帰った時の暴れようはトリマーさんには見せられないくらい全く別犬だった。
だから、その前に準備が必要だ。私は昼休みを利用して病院とカットに行く前に、太郎くんを公園に連れて行き、おしっこをさせ水を飲ませた。
そして病院での診察予約は、午前の部最後の時間だった。この日は、耳掃除をした。それはそれは大っ嫌いなこと。頭をブルブルと何度も振っていた。
一方、私はこの日、朝から在宅ワーク用ノートパソコンの調子が悪かった。バッテリーが故障し、パソコン本体に充電されなくなった。太郎くんの病院とカットも気になりつつ、その対応に追われた。
しかし、その翌日が出社予定だったこともあり、この日は出社せずに在宅でなんとか済ませようと努めた。節電モードにして何とか持たせた。
今思えば、この日に出社して、翌日在宅に変更すればよかったのだ。
ここでも選択を誤った。
夕方、父が太郎くんを迎えに行った。
病院、トリミングを終えた太郎くんは、とても疲れ切っていた。
そして、お腹を空かせていたのか、ガツガツ食べた。
太郎くん、疲れたよね。
ゆっくり休んでね。
明日は会社だ。母が退院してから、初めての出社だった。
太郎くんはまだ母によそよそしかった。
二人きりにして大丈夫だろうか。
父もいるから、大丈夫だろう。
この時に戻りたい。
大丈夫と思った私を殴ってやりたい!!
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