序章 #17 完全なるサインと最悪なタイミング 母の退院前日の午後、気になることがあった。 気のせいかと思うくらいほんの一瞬、だけど強烈で生臭い魚のニオイがした。それが太郎くんからなのか、自分なのかわからなかった。 2代目太郎くんは肝臓ガンで14才半で亡くなった。その亡くなる数日前の生臭... 2021.10.28 序章
序章 #16 だれ? 変なおばさんがいる 急にぼくの家にやってきた。 さっきはレバーのニオイにつられて、近寄ってしまったけど。このおばさんはだれだ? だれ? だれなんだろう…… ぼくのかすかな遠い記憶…… 知っている人のような気もするんだけど、 このニオイ、ぼくは知らない。 ぼくが... 2021.10.27 序章
序章 #15 母が退院……犬の記憶力って? 2020年12月11日。母が退院した。 家族全員、車で母を迎えに行った。もちろん太郎くんも。 退院手続きも取り、久しぶりにパジャマから服に着替えた母。やっと普段に戻れる!まだ母の体調は万全ではないが、C R Pも落ち着き、肝膿瘍も小さくなっ... 2021.10.26 序章
序章 #14 な、なんだ!? みんな変だよ! な、なんだ!? なにしてるんだよ!!!??? 朝起きてリビングへ来たら、仕事から帰って来たお父たんが、ダンボールにお母たんの本を箱づめしていたんだ。 それを見て、お姉ちゃんが、「余計なことしないでよ!」 バトルが始まった。「勝手にしろ!」 ... 2021.10.25 序章
序章 #13 母の退院が決まった 2020年12月になった。母が入院して3週間経った。 あらゆる検査の結果、主治医から「グラム陰性桿菌敗血症」との診断が下された。母は肝膿瘍により敗血症を引き起こし、高熱によるショック状態で救急搬送された。しかし、その原因となる菌を特定するこ... 2021.10.23 序章
序章 #12 ぼくの大好きな場所 今日は、ぼくの大好きな場所を教えるよ。 それは、一階リビングにある、長いソファーの左側なんだ!このソファの後ろには、お母たんの本がいっぱい! ここにバスタオルや毛布が敷かれたぼくのベッドが置かれる。そこに横たわり、ぼくは、ひじかけにアゴを乗... 2021.10.22 序章
序章 #11 お姉ちゃんなんか大っ嫌い! お母たん早く帰ってきて! 最近のお姉ちゃん、嫌いだ! いや、大っ嫌いだ! ずっと忙しくしてるし、ぼくと一緒にゴロゴロしてくれない。ぼくが何か言うと、「ちょっと待って!」 そればっか。やっと、ぼくのそばに来てくれたと思ったら、大っ嫌いな耳掃除するんだ! あーあ…… お... 2021.10.21 序章
序章 #10 ちょっと待って! 「クーン、クーン」「ちょっと待って!」 ほら始まった。太郎くんはおしゃべりだ。トリマーさんからも「太郎くんはお話上手だね」と可愛がられ(うるさいってことだった?)、いつも人気者だった。 太郎くんがこれまでお留守番したことは5本の指で足りるく... 2021.10.20 序章
序章 #9 濃縮ジュースの嫌な予感 母の容体が安定してからは、心のゆとりもできた。 太郎くんの免疫低下のサインも見逃すほど、緩んでいた。「太郎くん、こっち見て! お母さんにメッセージ言って」とねだったり、「クーン、クーン、クーン」と甘えた鼻声を言わせたり、無理矢理おもちゃのロ... 2021.10.19 序章
序章 #8 サインは出ていた 母の入院4日め。 母の容態が最悪だった。 洗濯物を預けた看護師さんから容体を伺い、ガラス越しに見た母の顔が浮腫んでおり、顔色は土色。ゾッとした。その帰りは泣きながらペダルを漕いだ。 太郎くんは、そんな私の様子を敏感に捉えていた。 それはわか... 2021.10.18 序章