その疑問とともに、次の疑問も浮かんだ。
それをセカンドオピニオンの先生にぶつけた。
「ホームドクターとはどうしたら?」
「確かに腎臓の数値も悪いので、皮下点滴を続けるのはいいと思います。そして、週一の貧血ホルモン注射は続けてください。ホームドクターと私とで並行でいいと思いますよ。やはり病院は、近くて通いやすいのが一番だし、皮下点滴と毎日の状態を診てくれるのならそれに越したことはないです」
「薬はどうしたらいいですか?」
「ホームドクターで処方されているクッシング症候群の薬を使って、私が処方する抗生剤で治していきましょう」
これなら安心だ。
セカンドオピニオンの先生は、ペット第一、そして若いだけあって柔軟な考えをしていると思った。私も甘えて、続けて相談した。
「セカンドオピニオンを受けたことをホームドクターに言うべきですか?」
「言うに越したことはないです。それで気分損ねるのならそれまでの先生だと思います。でも、その先生のことは私はわからないので、その判断はお任せします」
私はどうしようか……少し間が空いた。
それを先生は察してくれたのだろう。
「結局、ホームドクターのところでの治療は腎臓の数値の改善でしかないので、(話さなくても)支障はないと思いますが」
結局、私と父はホームドクターには言わなかった。というより、言えなかった。
私と父は、過った選択をしたのかもしれない。
でも、ホームドクターは、お正月休み中も毎日診察して、皮下点滴をしてくれた。これまでの感謝の気持ちも当然ある。
今思えば、それが悪化させた原因の一つなのかもしれないが。
セカンドオピニオンの先生は親身になってくださり、本当に感謝しかなかった。しかし、このありがたい診察は、どの患者さんに対してもそうだった。
つまり、待ち時間が長く、この日も病院を出たのは夜9時過ぎ……診察が終わっても、丁寧な薬の処方をしてくださる分、待ち時間も長かった。
結局、この日病院には、午後5時〜9時過ぎまでいた。
お会計を済ませ、車に戻る。
いくら車好きで、車で寝ることも大好きだった太郎くんも、ぐったりしていた。
この日でわずかな体力を全て奪ってしまった。
診てもらいたい時にすぐに診てもらえないもどかしさ。だけど太郎くんはしっかり診てもらいたい。“わがまま”でしかない思いが頭を巡っていた。
当然、父も待ちくたびれていた。私の表情から“悪いこと”を察していた。
「こんなに時間と手間と太郎くんの体力を使い切るほどの意味があったのか!」
父の言葉には苛立ちも混じっていた。
「あったよ! 太郎くん! お姉ちゃんが絶対に治すから!!」
父は具体的な内容を知りたがっていたが、やはり太郎くんを気にしてそれ以上は聞いてこなかった。
シーズー特有の空気読む能力抜群のDNAに、生後2ヶ月からずっとおしゃべりな家族といる太郎くん。そんな太郎くんの前では絶対に話せない。
私は自分に言い聞かせるように、
「大丈夫! 大丈夫! 太郎くん、大丈夫だよ!!」
と言っていた。言いながら、あらゆることを悩み考えていた。悩み考えることで必死に涙を殺していたのだと思う。
泣くより考えろ。
泣くより前に進め。
ちなみに、この診察代と薬代を含めて、29,382円だった。
エコーと血液検査代がそれぞれ1万円近かったが、他の項目は数千円で良心的な値段だった。
金銭的な悩みはなかった。
ただただ、時間の悩み(=すぐに診てもらえない)だけだった。
丁寧で熱心な分、時間がかかる。それはどの患者さんに対してもそうなのだ。
そして、この病院のすごいところは、突然休診して緊急オペをしてくれること。これは重病患者側にとってこれほど嬉しいことはない!
しかし、太郎くんのような病状の場合、病院へ向かう途中にこの状況になってしまったら……。
結局、その日は診てもらうことができない。
よって、この病院に太郎くんを委ねることはできなかった。
このことから、ホームドクターの機嫌を損ねることを恐れた。
それはまるで変な話だが、浮気だか不倫だかの心境と似ていた。
若い不倫相手(=セカンドオピニオンの先生)は妻(=ホームドクター)がいることを知っている。
それが前提の出会いだったから、
「私だけにして!(=セカンドオピニオンの病院に切り替えて!)」とは言わない。
妻には不満がある。年のせいもあり保守的で(=従来の治療)、家のローンのこともあるのだろう(=独立開業)、贅沢はしない質素な生活だ(=高度医療はしない合理的で自然に任せた診察)。意固地なところもある(=長いキャリアの先入観)。
それを不倫相手に相談したら、その足りないところを不倫相手は全部カバーしてくれた!
しかし、不倫相手は誰にもそうで自分だけを構ってくれるわけではない。会いたい時(=診察して欲しい時)に会えるわけでもない。時には、ドタキャン(=緊急オペで休診)もある。
妻との安定した生活も断ち切りたくはない(=通院、経過観察)。妻には長年連れ添った感謝の気持ちもある。今までの困難(=ケガ、病気)だって乗り越えてきた。これまでの人生(=太郎くんの経緯)も知っている。
私は決めた。
ホームドクターとセカンドオピニオンの先生をうまく使い分ける、と。
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