#23 太郎くんが入院した日 2020.12.19 ①

 朝から家族会議になった。
 この日もお昼頃に診察の予約をしていた。

 太郎くんが全く良くならない。今朝もごはんを口にしなかったからだ。

 家族全員思っていたことを改めて口にした。

「トリミングで院内感染したんじゃないの?」

 母の入院という家庭内環境の変化で太郎くんは甚大なストレスを受け免疫力が低下した。それが原因でいつもならなんてことのない菌やウイルスでも、太郎くんの体内で増殖し、とんでもない症状を引き起こしたのではないかと。

 ホームドクターであった動物病院の先生、看護師さん、トリマーさんには全力を尽くし、本当によくしてくださいました。ただ、これは事実に基づいた患者側の憶測であり、その因果関係を究明したわけではありません。
 愛犬を失った一個人として、日々の記録として残したいがために、ありのままを書き記します。そのような理由から、今後も動物病院名等は一切伏せた上で、患者側の気持ちの推移を正直に綴らせていただきます。

 動物病院併設のトリミングサロンは、太郎くんが結石の手術で入院していたゲージがあるフロアであり、同じ空間だった。サロンの変更を決意したメリットの一つに、病院内で何かあった場合はケアできるから安心と思っていたが、普通に考えると、トリミング・ペットホテル専用のサロンに比べたら、院内感染のリスクは高いのだと、太郎くんの体調不良により気づかされた。サロン変更が裏目に出たのではと。

 家族全員がこう思ってしまった以上、かかりつけの病院に行くことに躊躇が生じるのは当然だ。でも、「院内感染ではないですか!」なんて強く言えない、でも事実そうとしか思えない。
 他の病院に行こうか、そうだ、結石手術の時に調べた先進医療をしている病院に行ってみようか、ホームドクターが独立前の病院に行ってみようか。以前通っていたベテラン先生のいるところへ行こうか……
 悩みに悩んだ。

 結局、太郎くんのお世話係である父の一言で決まってしまった。

「毎回病院に連れて行っているのは俺だ。ここで違う病院にしたら、もうここには行けない。裏切るのか。いつも誠意を尽くして診てくれている先生だ。今までの病状も知っているし、そして、今後も太郎を病院に連れて行くのは俺だ」

 そうなのだ。太郎くんの病院通いは、平日に父に任せていた。土日はどうしても混雑している。私は平日にいけない。私は、太郎くんがクッシング症候群発症の時、先生に質問がある時など、年に数回しか同行していなかった。最低月1回は通院していたから、父とホームドクターの先生とは信頼関係が築かれていた。しかも先生が独立前の約7、8年前から、ずっと太郎くんのことを診ていただいているのだ。父からすると、今更、他の先生に診てもらうというわけにはいかなかった。他の先生に診てもらうにしても筋を通したいと。

 確かに父の言う通りだ。
 ならば、私が抱いた疑問、不安、勝手な憶測、全ての気持ちを先生にぶつけてみよう。父も母もそれを許し、むしろそうするように勧めた。
 予約の時間にこの日も私は父と病院に同行した。そこで先生に気持ちを吐き出した。もちろん失礼のないように努めたが、実際はどうであったかはわからない。そんな私に先生は丁寧に親身に誠意を持って応じてくれた。

 うん、大丈夫だ! 私も安心できた。心から信頼することにした。
 「先生を信じる」、と。
 「太郎くんをお願いします」、と。

 先生から病状の説明が始まった。
 昨日の血液検査の結果より、腎臓の数値が悪いことを指摘し、「腎臓病」と診断した。

 ならば、皮下点滴ではなく静脈点滴をすることで、抗生物質も直接体内に送ることができるので、回復が見込めるのではないかと。でも、それには最低1週間くらい必要だとのこと。
 犬の腎臓病は猫のそれよりも悪くなった場合のスピードが早く、発症から腎不全となるまで1ヶ月単位となる場合が多い、なので覚悟してください。そして、一週間の入院となると、万一のことも考えられます。夜間はスタッフ不在になるので、どうしても処置が遅れる場合もあります。入院せずに、ご自宅で家族との時間を優先する選択肢もありますので、よく考えてください。

 私は先生が何を言っているのかわからなかった。
 太郎くんが治らないはずはない。なんで万一のことを告げるのか。
 治る! 今は治すことに専念してほしい!

 私は、腎臓の数値が悪い血液検査の結果を見た先生の太郎くんに対する治療熱が下がったのを察知していた。諦めモードのスイッチが入った音が聞こえた。「腎臓病=治療不可」という腎臓病の知識は、3ヶ月前に看取ったNさんの愛猫ちゃんからすでに得ていた。それを私自身知っていたから、先生の心の変化を察知してしまったのだ。

 さっき信じたばかりの先生に対し、また疑念が湧いてしまった。いやだめ、先生を信じよう。
 これが何回頭の中で繰り返されたことか。
 それを吹っ切るように、自分に言い聞かせた。 

 太郎くんは大丈夫!
 だから、入院して頑張って、また元気になる。

 私は、太郎くんを入院させた。

 その駐車場で嗚咽をあげた。

スポンサーリンク

コメント

タイトルとURLをコピーしました