急にぼくの家にやってきた。
さっきはレバーのニオイにつられて、近寄ってしまったけど。

だれ?
だれなんだろう……
ぼくのかすかな遠い記憶……
知っている人のような気もするんだけど、
このニオイ、ぼくは知らない。
ぼくが嫌いな病院のニオイに似てるんだ。
だから、イヤだ。
お父たん、お姉ちゃん、家にいたくないよ。
お散歩行こう! 早く行こう!!
あーーー、お散歩最高〜〜〜♪
「おうちに帰りたくないよ。もっと行きたいよ!」
ぼくは、お姉ちゃんにねだった。
「もう、遅いから帰ろう。お母たん待ってるよ」
お母たん? 誰それ?
帰ると、ぼくの大好きな場所に、知らないおばさんが座っていた。
もう、この部屋にいたくないよ。
お姉ちゃん、早く寝よう!
こんなぼくを心配してか、お姉ちゃんは寝る前にぼくに話してくれた。
「太郎くんがずっと待っていたお母たんが帰ってきたんだよ。でもね、病気になってずっと病院にいたから、お薬のニオイでお母たんのニオイじゃなくなったんだよ。だから太郎くんはわからなくなっちゃったんだよね。そのうち、太郎くんが知ってるお母たんのニオイに戻るからね」
お姉ちゃんは、ぼくの頭をなで、「太郎くん、いい子だね」って歌ってくれた。

白くまちゃん枕をして、”ニャンコ先生”と呼んでいるぬいぐるみが寄り添う。これがぼくの寝室。そして、寒かったりさみしくなるときは、隣のお姉ちゃんのベッドに行くんだ。
お母たん……わからない。誰なんだろう。
あのおばさんがお母たん?
ぼくは寝た。
そして、いつも目覚める深夜3時。
お姉ちゃんのベッドに上がり、お姉ちゃんと一緒に寝る時間だ。
今日は特にさみしかった。
ぼくは背中をピッタリと、お姉ちゃんの背中に合わせた。
お姉ちゃんの背中はあったかい。

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