異変が起きやすい、深夜2時から3時。
この時間を“魔の時間”と呼んでいた。
この日は、死を感じさせる魔の時間だった。
右後ろ足が動かない。立とうとしても力が入らない。太郎くんは諦めた。訴えるように私をじっと見つめた。
ぼく、たてないよ……
悲痛な叫びが大きな瞳から響く。太郎くん自身が一番ショックなのだ。今まで立てないってことがなかったから。同時に私は知っていた。立てなくなったら死はすぐそこだと。
二代目の太郎くんが旅立つ前の日にバタンと倒れ、立てなくなってから旅立つまでが数時間だった。
やがて前足が痙攣してきた。毒素が回ってきてる? なんなの!
私は太郎くんに伝わらないように必死で“普通でいること”を演じた。
そして朝が来た。
おしっこはどうだろう。
抱っこして、お気に入りの場所へ連れて行った。静かに地面に下ろし、支えながら立たせるとかなりの量が出た。我慢していたのだろう。
そして心を鬼にして、ロイヤルカナンのリキッドをシリンジで飲ませた。30CCが限度だった。少しずつ慌てない。自分に言い聞かせた。
結局、今日も自力で口にしなかった……
夜は冷たい雨が降ってきた。
朝、前足が痙攣を起こしていた。もう近づいているのかもしれない……。思いたくなくても感じてしまう。でも絶対にイヤ! うまく病と付き合っていこうよ。
今までだって、そうだったよね?
急にひどくなってしまったけれど、うまいこと病気と付き合っていたよね、太郎くん?
誰もわからないところでがんばってたんだ。
お姉ちゃんもがんばる。太郎くんがペロペロして、いつか自分でおいしく食べれるようになるまでがんばる!
カステラ、焼き鳥、何でもいい。なんでもいいから食べて! お願い!
そして貧血も治して、うまく付き合っていこう!
栄養状態良くすれば、またお散歩できるんだよ!
今は、無理に食べさせようとしなかったから、今までの筋力が衰える一方。それをここで止めよう。
絶対にお空にいっちゃダメ!
お兄ちゃんたちだって全力で追い返すよ!
どうかお願い、どうかお願いします。
もうつらいよ……よくなると信じて毎日毎日生きてきた。太郎くんだってそう思って生きてきた。
努力は報われるんだよ!
奇跡よ! 起きれ! 起こそう!
明日はなんでもいいから食べてほしい。少しでもよくなってほしい。
泣くに泣けずにいたけど、ふとご飯の時に泣いてしまった……
太郎くんとの時間全部が宝物。この先もずっとだからね!
まだまだ太郎くんは大丈夫!
お姉ちゃんが絶対に治す!!!
2021.1.23 太郎くんの闘病日記より
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